カノン金物店 10

館長 風屋のリオン

さあ、小象童話館のオープンです。館長は「風屋のリオン」。風屋とは聞きなれない仕事ですが、吹きすぎる風の中から透き通った鳥を捕らえる仕事。鳥の代わりに不思議な物語を捕まえてお話しましょう。

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カノンはその混乱の中を、どのように切り抜けてきたか良くわからないが、気づくとたった一人で、家の近くの公園に倒れていました。体中のあちこちがひどく痛んだけれど、大きなけがはしていませんでした。日はもうすっかり暮れて、空にいくつもの星が輝いているのが目に入りました。

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カノンが気が付くと家の近くの公園に倒れていました。

父の残してくれた忠告の本当の意味が、その時やっと分かりました。そしてもしかすると、あの手紙を残した父自身が、36年前に自分と同じ体験をしたのではないかと思いました。 カノンはそのできごとが新聞に載っていないかと、それから毎日注意していました。けれども、とうとう一行の記事も出ませんでした。人々の目に触れることもないままに、闇から闇へと消えて行ったのでしょうか。

カノンはあの日、正装をして集まっていた人々がどうなったのか、そして、36年間待った、というこの出来事はついに成功したのか、とても気になりました。しかしそれを知る方法もすでにありませんでした。 そっと、あの建物にも行ってみたけれど、人々が踊り、歌い、祈った場所にあの日のできごとを思わせるものは、何ひとつありませんでした。まるであれは夢だったというように・・・むしろ、その部屋がすみずみまできれいに洗い流されているのが、奇妙に目だっていました。 カノンはその時、あの男の悲しげな表情がふいに思いだされて、胸が痛みました。

カノンには、もうひとつ気になることがありました。 カノンの店には、あのプルトハイと呼ばれる金物がまだ三つも残っているのです。 これからも、このようなできごとが繰り返されるということなのでしょうか? もしそれが正しいとするなら、今回のことは、あらかじめ失敗すると決まっていたことになります。そしてこれからの2回も・・・ それをあの人たちは知っていたのでしょうか。 いや、誰にもそんなことはわからないに決まっています。 ただ、この金物を三つ持っているこの店の、得体の知れない何かが、そう考えているに過ぎないのです。

それからひと月ほどたったころ、カノンは誰が書いたかわからない手紙を受け取りました。 「カノンさん、あなたの店にいつかまた、きっと、買いに行きます。そのときに店がまだあるように、願っています。」 手紙にはそれだけしか書いてありませんでした。誰が買いに来るのかも、何を買いに来るのかも書いてありませんでした。けれどカノンは、たったそれだけの手紙を、店の隅で何度も読みかえしました。

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カノンは名も知らぬ人からの手紙を何度も読み返した

 カノンは父が残したメモを捨て、新しい紙にプルトハイをていねいにくるむと、棚の一番奥に、隠すようにしまいこみました。

                         終

— posted by 風屋のリオン at 06:55 pm  

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